2008-09-04 21:54:35
テーマ:旅行記

季節は7月、遅い夏がシアトル郊外にもやって来た。
僕は今深い森に囲まれた友人宅のテラスにいてこれを書いている。目の前を無数のタンポポの種子が右から左へ漂い、飛んで行く。風は微風。碧空に高層雲がゆっくり、ゆっくりと流れ、時折聞こえる小鳥の鳴き声さえもがゆったりとしている午後。日除けパラソルを透過する強烈な紫外線を肩に感じながら、時々大きなため息を付きつつ、胸一杯に吸い込む清澄な空気がなんとも心地よい。
沖縄の離島で感じるあの倦怠感!花の香と湿気をたっぷりとを含んだ風が運ぶ気だるさとも、南太平洋の乾いた潮風に浮き立つ高揚感とも対極にあるような懐の深い風が吹いている。確かにここの風は荒削り、料理で言えば塩味だけの風が吹いている。この当に『感じ方を強要しない大らかな風、そんな風そのものがアメリカなんだ』と勝手な解釈しつつ、この風の香を肴に僕はもうビール3本を空にした。
僕の足元にはこの家の愛犬ジャジャ(シェパードの雑種、雌、4歳)が昼寝をしている。庭先のモミの枝が不自然に揺れた。すかさず彼女は飛び起き、駆け出す。モミの木の前に作られた花壇に飛び込むかと思いきや、花壇を大きく迂回して、大木の根元に達し、頭上に向かって盛んに吼え始めた。恐らくリスなんだろう。
彼女は決して花壇には入らない。獲物をもう少しのところで捕獲出来る時でも花壇の柵の前で必ず諦める。以前モグラを追いかけて花壇の土を掘り起こして御主人にひどく叱られた事を忘れない。
ジャジャは再び僕の足元に戻り、うたた寝を始めた。時々森の木々の擦れる音に耳をそばだている。遠来の客を野生動物から守るボデェーガード役を務めているつもりらしい。何せここシアトルの森にはコヨーテはもちろんクーガまでもが生息している。僕はヒトと犬が共に暮らし始めた太古の森を想像しながら、彼女と共にあることの安らぎに満たされている。
『ビールをもう一本飲もう』
ここは風が美味すぎる。